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インタビュー (2011年10月掲載)

インタビュー
(2011年10月掲載)

2002年4月に刊行を開始した『居眠り磐音 江戸双紙』シリーズ。第一巻「陽炎ノ辻」からカバーイラストを担当されている蓬田やすひろさんにお話を伺い、普段のお仕事振りやシリーズの印象を語ってもらいました。

普段のお仕事振りについて

編集部:普段のお仕事の流れから伺いたいと思います。まずは、出版社から依頼があって着手されることと思いますが?

蓬田:そうですね、出版社の方からお仕事の依頼をいただいて、まずは初校や再校ゲラを送っていただきますね。

編集部:編集者と打ち合わせもされて……。

蓬田:最近、ほとんど打ち合わせしないんですよ(笑)。 打ち合わせが嫌なわけじゃないんですけど、自分に全部お任せいただくことが多い。 ただね、作品によって違いますし、編集者によっても違いますけど、「人物を強調してほしい」とか「遠景でお願いします」とか、 その程度の要望はありますけど、最近は「ゲラを読んでイメージを掴んでいただいて、描いてください」っていうのが多いですね。

編集部:では、ゲラをお読みになって、シーンを選んでいかれるんでしょうか?

蓬田:その時その時によって違うんですが、原稿を読んでいって、こうやってゲラを折っていくんですよ。 それで、そこに全部メモしていく。それで、最終的にイメージを掴む場合に参考にするんです。 そこからさらに煮詰めていく。

編集部:1つのシーンだけではなくて、いくつかのシーンを選びながら、それらのシーンをトータルしてイメージを膨らませていく感じなんですね。

蓬田:そうです。イメージを固めて、ラフ画を描いて構図を決めて。 着色を始めるんですけど……、でもね、完成させるまで考えちゃうんですよ。 特にシリーズものの場合は、他の巻との兼ね合いもあるから、色とかシーンとかね。 「前回は夜のシーンだったな」と思って、昼のシーンを選ぼうとしても、画になるものが無かったりして。 そうすると、同じ夜のシーンでも、少し違う色にしようとかね。

編集部:例えば、日没直後とか深夜、夜明け前とかで、夜空の色調を変えるとかですか?

蓬田:そうです。そういう具合に色に変化をつけて違う色味を出す。 灯りがあるか無いかで、闇の深さも変わりますしね。あとは、人物を入れてみた時、「何となく似ちゃうかな」と思ったりしてね。 絵としては全然違うんですよ、でもね、何となくそう思えてきちゃう。だから、描きながら何度も何度もゲラをひっくり返しますよ。 描きながらゲラを再読していく感じなんです。場合によっては極端だけど、半分くらいまで着色しても、書き換えちゃう時もありますよ。

編集部:最初から書き換えですか?

蓬田:ラフ画から書き換えますよ。 もともと僕の場合、さっきのメモ書きのところにも小さいラフ画を描いておくんです。 でも、実際に大きいラフ画を描いてみると、意外と間延びしていたり、ちょっと物足りなかったりとかあって。 そうすると、またゲラに戻って、何か付随する素材はないか探したり……。でも、大概無いですけどね(笑)。

編集部:では、かなりの枚数のラフ画を描かれるわけですね。

蓬田:何枚も描きますよ。いろんなラフ画を描いてみて、「もう少しアップにしてみよう」とか「この構図で、 こっちのシーンは描けないだろうか」とかやってみる。

編集部:では、「このシーンだ!」って決めて、本番の下絵を描いていくという感じではないのですね。

蓬田:違いますね。作品によっては、「このシーンで決まり」というものもありますけど、 シリーズものに関して言えば、シリーズが長くなればなるほど変化をつけていかなくちゃならない。 だから、いろいろと試行錯誤します。

編集部:そういう意味では、相当ゲラを読み込まれるわけですね。

蓬田:そうですね。ただ、僕の場合読み込むといっても、ストーリーを読み込むというより、 どこかポイントになるところはないかなと思って読むんです。だから読者が読んで「楽しかった」という感動とちょっと違う。 僕にとってゲラは、物語としてのゲラではなくて、表現するためのゲラなので、「どういう絵が描けるかな」と思いながら読むんですよ。 だから、どう表現しようかとゲラと格闘する。それもまた楽しいんですけどね。

色、そしてグラデーション

編集部:シリーズもののカバーイラストを手がける場合、特に気をつけていらっしゃるポイントはありますか?

蓬田:僕の場合は、色ですね。似たような構図でも、色のトーンによってガラッと絵柄が変わって見えますから。 よーく見たら、何となくパターンはあるな、だけど絵としては全然違うものになってるなと。シリーズものは他の巻との差別化をしなければならないですからね。 だから色については結構悩みましたよ、微妙な色の作り方なんかで。

編集部:ちなみに蓬田さんはお好きな色や嫌いな色というのはあるんですか?

蓬田:絵を描くにあたって、特に色の好き嫌いは無いんですけど……、黄色がね、非常に難しい。

編集部:黄色ですか、確かに黄色系の作品はあまりお見かけしないですね。 蓬田さんの作品のイメージは青の印象が強くて、編集部では勝手に「蓬田ブルー」って呼ばせてもらってるんですが。

蓬田:確かに最初はブルーやブルー系が多かったですね。見た目も綺麗で涼しげだし。 逆に以前は赤をなかなか使えなかったんですよ、茶色も含めた暖色系がね。でも、少しずつ自分なりに掴みつつあって、赤を使う際の幅が広がってきた。 だけど、黄色がね、なかなか仕事で使うまでにはいってないかな。 赤系の暖色、青系の寒色、その間の中間色をうまく作り上げていくには黄色系をね、使いこなせるようにならないと。それがこれからの課題ですね。

編集部:では、本番の下絵を書き上げてから着色のことを伺いたいのですが。

蓬田:いや、実際には下絵を描き上げてから着色するわけではないんですよ。 やっぱり塗る順序みたいなのがあるので、ポイントとなる部分を先に塗って、「ここは人物必要だ」とか「ここには人物を入れないようにしよう」とか考えながら塗っていくんです。 そうやって少しずつ進めていくんですよ。だから塗ってる途中で「あれ、これまずいな」と思ったら、また描き直す。 紙を変えずに、その上から塗り替えていくんです。

編集部:え、同じ紙ですか?

蓬田:そう、同じ紙に。そのためにマスキングをするんですよ。 白いテープでね、塗り替えない場所を隠して、描き直しの絵の具の色が入り込まないようにするんです。 あと、グラデーションを作る時もね、マスキングします。

編集部:グラデーションを作るってことは、ミリ単位でマスキングするってことですか?

蓬田:そうです。グラデーションて、普通はエアブラシを使って作るんですよ。 だけど、エアブラシで作ったグラデーションて粗いんですよね。 僕の場合、ミリ単位でマスキングをして、筆でグラデーションを塗っていくんです。 グラデーションを絵に取り入れるようになって30年ぐらいになりますけど、結構試行錯誤を繰り返して、今のやり方に辿りついた感じです。 絵によっては、グラデーションの上に違う色でさらにグラデーションを塗ることもありますよ。 そうすると絵の具が乾いた時点で何ともいえない不思議なぼかしになってくる。

編集部:その技法、「居眠り磐音」のカバーイラストでも使われたことありますか?

蓬田:ありますよ。地べたとか遠くの風景だとか。第30巻「侘助ノ白」の地べたがそうです。 これね、最初はブルーと明るいブルーでグラデーションを作ったんですよ。 それで、ちょっと赤いピンクと明るめの紫でその上にグラデーションを重ねたんです。 日本画の絵の具って透明感があるから、どうしても混じっちゃいますよね、でも混じることで一つの色が出来上がる。

編集部:では、紙の上で色を作っているようなものですね。

蓬田:そう、仰る通り紙の上で色を作ってます。 パレットやお皿の上には、普通の絵の具を置いておくだけで、色をかけ合わせるのは塗りながら紙の上でですね。

編集部:ちなみに1枚のイラストを書き上げるまで、どれぐらいの日数を要しますか?

蓬田:ゲラ読みで3、4日、本番のスケッチを始めてから3日ぐらいですね。

編集部:スケッチから完成まで3日ですか、3日は早いですね。

蓬田:いや、ゲラ読みの段階でラフ画を描いたりしてますからね、下準備が出来てれば早いですよ。 一気にバッとやっちゃう。料理と一緒ですよ、下拵えさえ出来てれば、調理の時間はそんなにかかんないじゃないですか。 それにね、3日で完成させないとね、僕の場合飽きちゃうんですよ(笑)。

編集部:え、飽きる?

蓬田:そう、飽きちゃう。見たくなくなるんです(笑)。

編集部:見たくなくなるというのは?

蓬田:あのね、嫌になってくるんです。時間をかければかけるほど、描き直したくなるんですよ。 いろいろ試してみたくなったりね。でも締切もあるからね、とにかくバッと仕上げちゃう。 描いてて飽きない限界が3日なんです。そのかわりその3日間は全力投球ですよ。

編集部:でも、お仕事が詰まってくると、何点か同時進行になったりしませんか?

蓬田:同時進行になりますね。着色しながら、少しでも時間が空くと別の依頼のゲラに目を通したりね。 常に3本ぐらいは頭の中で同時に進行してる感じです。でも、そうしないといけない理由もあるんですよ。 何故かというと、ほぼ同時期に依頼される仕事って、実際に本になって店頭に並ぶのも同時期ですよね。 同じような絵柄になっちゃまずいですから、あらかじめそのことも念頭において描くんです。

「居眠り磐音」シリーズについて

編集部:蓬田さんはたくさんの作家さんのシリーズのカバーイラストを手がけていらっしゃいますが、 「居眠り磐音」シリーズについての印象をお聞かせいただければと思います。 まず、このシリーズのイラストは描きやすいですか、それとも結構迷うほうですか?

蓬田:磐音さんのシリーズは描きやすいですね。リズムがね、絵にリズムが出せるんですよ。 小説にね、独特の空気がある。だからね、すごく感覚的にやれるんです。剣戟のシーンでも、間合いというかね、 磐音の剣法ってサッと一太刀で仕留めるみたいな感じですよね。でもその裏には相当な修練があって、その剣の高みに達している。 そのあたりを絵にね、意識しますよ。この仕事をいただいた時にね、感じたんですよ。 これまで描いてきたものと違う、大胆というかね、なにかデザイナー感覚でイラストを描けるチャンスかなって思ったんです。

編集部:いま磐音の剣の話が出ましたが、10年にわたりこのシリーズのカバーを手掛けられてこられて、 坂崎磐音のキャラクターをどのようにお感じですか?

蓬田:磐音さんはね、スーパースターですよ。どんな人が相手でも、どんな局面でも、この人は死なない、そういう人ですね。 まぁ主人公だから、死んじゃったらまずいんだけど(笑)。それでいて日本人が本来持っている感性を兼ね備えている。 我々が先人から伝えられてきた日本人の姿が描かれているんですよ。 時代が違うから全部が全部真似できないにしても、お手本になるような一人の日本人、そういう人物であることは間違いないですね。 こういう人物が現代にいたらどうだろうか、いてほしいなと。そして思わずね、自分を見つめなおすというか、こういう人物になれたらいいなあと思わせる人物ですね。 佐伯さんはきっと物語を通してね、日本人を描いてるんだと思います。

編集部:具体的にどんな場面からそうお感じになられますか?

蓬田:そうですね、具体的にこのシーンていうのは無いんですけど、磐音は多くの剣客から狙われてきて、いつ殺されるかわからないじゃないですか。 なのに周りの人に気を配ったりしますよね。自分のことよりも周囲の人がまず第一というようなね。 それが人間だけじゃなくて動物にまでしっかり愛情を注ぐじゃないですか、白山にね。 それって現代でも、近所の犬に通りがかりのおじさんが「元気か」って頭をなでてあげるような行為ですよね。 そういうね、要所要所で磐音の人間性を出しながらストーリーが進んでいくというのがね、読者から支持されている要因じゃないかと思いますね。

編集部:シリーズ本編の最新刊にあたる37巻「一矢ノ秋」のカバーイラストについてお話を伺いたいのですが、 実際に描かれてみていかがでしたか?

蓬田:「一矢ノ秋」という作品は、動きのあるシーンが非常に多かったですよね。 そういう意味では結構迷いました。シーンでいうと、第二章の滝の裏側での戦闘シーンと第五章の岩場のシーンが特に印象的で。

編集部:それで、実際は岩場のシーンで描いていただきました。

蓬田:そうですね。 「姥捨ノ郷」のカバーイラストが、おこんさんを背負う磐音ら一行が岩場に立っている絵だったので、最終的にはもう一度岩場を出してもいいかなと思いましたね。 今度は雪の降りしきる冬のシーンでね。第四章の章タイトルが「七人の侍」だったじゃないですか。 そのあたりもあって、今回はなるべく多くの人物を描こうと思ったりしました。

編集部:多くの人物を描くにあたって気をつけられたことはありますか?

蓬田:敵が唐人ですからね、服装もその感じを出しつつ。武器の槍もね、これまであまり描いてこなかったので、そういうのもいいのかなと。

これまでのキャリアと今後

編集部:蓬田さんご自身のお話をうかがいたいのですが、イラストレーターになられて何年くらいになられますか?

蓬田:もう、かれこれ50年以上になりますね。

編集部:50年以上となると、これまで何枚くらい絵を描いてらっしゃいますか?

蓬田:どれくらいでしょうね、自分でもよくわからないですね(笑)。 カバーイラストで、月6本前後。それ以外の絵の仕事もいれると、だいたい年間100枚ぐらいは描いてますかね。

編集部:ということは、単純計算で5000枚以上は描いてらっしゃいますね。

蓬田:それぐらいいってますかね。その中で、本のお仕事でいうと3000枚ぐらいはいってるかもしれませんね。

編集部:3000枚はすごいですね。50年以上ものキャリアとなると、イラストレーター特有の悩みとか職業病みたいなものもあるかと思いますが?

蓬田:そんなには無いですよ。ただ最近わかったんですけど、絵を描くとき、ものすごく力が入ってるんですよ。 特にグラデーションを塗るときとかね。こう、じっと息を止めて描くとね、歯を食いしばって色を塗ってるようなんです。 するとね、歯が壊れる、割れるんです。

編集部:歯が割れる! もともと歯は脆いほうなんですか?

蓬田:いや、歯医者さんに言わせるとね、むしろ歯は丈夫らしいですよ。 「歯が丈夫なのに、なんでそんなに力入れんの?」って言われましたからね(笑)。よく野球選手でね、歯がガタガタって人がいるじゃないですか。 それと同じらしいですよ。結構ね、筆で色を塗るって力がいるんですよ。

編集部:日常生活に支障がでてきますね。

蓬田:まぁ、仕方ないですよね。最近は面倒なんで放っといてますけど(笑)。

編集部:ずっと座ってのお仕事だと思うのですが、腰を痛めたりとかは?

蓬田:腰は平気ですよ。腕もね、腱鞘炎になったりしてませんから、まだしばらくは仕事出来そうです。

編集部:では、長くこのお仕事をされてきて、「よかったなぁ」と思うことって何でしょうか?

蓬田:やっててよかったということより、こういう仕事ができてよかったなと思うんですよ。 小さい頃から絵を描くのが好きだったけれど、まさか作家さんと組んで本の仕事ができるなんて思ってなかったですからね。 50年以上絵を描いてきましたけど、最初の20年は広告の仕事だったので、作品として残ることがなかったんですよ。 広告のお仕事は絵を描く人の仕事というよりも、企業というかクライアントの仕事ですからね。 その点、本の仕事は、作家さんの仕事だけれど、絵を描く自分の仕事でもある。 この作家さんの表紙を僕が描きましたと言えますからね、自分の作品になるわけですよね。 そういう仕事をやらせてもらったというのがね、非常によかったですね。

編集部:広告のお仕事から本のお仕事に変わったのはいつ頃ですか?

蓬田:40年くらい前に初めて本の仕事をいただいて、それから8年くらいは広告と本の仕事を並行してやってました。 雑誌連載で北原亞以子さんや平岩弓枝さんの挿絵をやらせていただいて、それから徐々に本の仕事の方にシフトしていった感じですね。

編集部:カバーイラストとしての最初のお仕事は何でしたか?

蓬田:藤沢周平さんの「橋ものがたり」の文庫版が最初でしたね。 その後も藤沢作品をいろいろやらせていただきました。 そのあとに平岩さんの「御宿かわせみ」シリーズがオール読物で連載が開始されて、その挿絵を担当するようになった。 そのあたりからですね、時代物が中心になっていったのは。

編集部:それでは最後になりますが、蓬田さんの今後のご予定をお聞かせください。

蓬田:今後も本のお仕事は続けていくつもりです。 その仕事を通してね、いろいろチャレンジしていこうと思っています。 それとはちょっと別に、個人的にはね、個展をやろうかと思っています。

編集部:いつ頃、どのような内容の個展でしょうか?

蓬田:2012年の10月に、日本橋の丸善さんでやらせてもらおうと思っています。 「江戸の風景」というデーマでね。ただ、本のカバーで表現してきたものと少し違って、もっと自由に江戸を描いてみたいと思っています。

編集部:本のカバーイラストの場合は、タイトルや著者名を入れるスペースも考えながらお描きになりますからね。

蓬田:そう。そういう仕事上の約束事を取っ払って、純粋に風景でね、江戸時代の日本の風景というものをムード的に描いてみたいと思っています。 そうすることで、自分自身も新発見できるかなという期待もあって。

編集部:それは楽しみですね。カバーイラストとは違う表現が見られるわけですね。

蓬田:そうですね。実際に描くのはこれからですが、ご覧頂いた方に「同じじゃないか」って言われないように頑張りたいと思います(笑)。

蓬田やすひろプロフィール
1941年札幌生まれ。広告代理店勤務後、74年からフリーのイラストレーターとなる。 92年読売新聞連載小説『かかし長屋』半村良著の挿絵で講談社出版文化賞さしえ賞受賞。 98年郵便切手『みかんの花咲く丘』制作。2001年NHK総合テレビ『藤沢周平の人情しぐれ町』タイトル画。 2002年『第37回長谷川伸賞』受賞。2006年毎日新聞小説『西遊記』平岩弓枝挿絵。 2007年朝日新聞社(朝日ビジュアルシリーズ)全21刊藤沢周平の世界表紙画。2009年第57回『菊池寛賞』受賞。 2010年チャンネル銀河松平定知の藤沢周平をよむ『橋ものがたり』より全10刊イメージ画などを手掛ける。
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(画)蓬田やすひろ (書)岡澤慶秀